【マイナビベガルタ仙台レディース】今、サッカーができることの喜び~9年目の『3月11日』を迎えて
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2020.03.25
今年の3月11日は晴れていた。「こんなに穏やかな3.11は久々だなって。その分気持ちも穏やかになったかなと思いました」とMF小野瞳選手が微笑んだ。雨模様だったり、雪が降ったりと、ここ数年は天気に恵まれなかった「3月11日」。この日は、時おり弱いにわか雨は降ったものの、温かな陽気の中、選手たちは活気あるトレーニングをしていた。
マイナビの前身である東京電力女子サッカー部マリーゼは、9年前の3月11日、シーズン開幕へ向けた宮崎キャンプの真っ最中だった。東日本大震災発生による、福島第一原子力発電所の事故。その影響でチームは休部となり、選手たちは「サッカーができる日常」を失った。2012年、マリーゼの所属選手18名にセレクションで選ばれた2名が加わり、チームを移管する形で誕生したのが「ベガルタ仙台レディース」だ。なでしこリーグ2部からのスタートだったが1年で1部に昇格を果たし、今年で創設9年目のシーズンを迎える。マリーゼ時代を知る3人の選手に話を聞いた。
当時、MF安本紗和子選手はマリーゼで3年目を迎えていた。「あれから9年経ったんですけど、今こうしてサッカーができる環境が当たり前ではないということを感じています。感謝の気持ちを忘れず戦っていきたいと思いながら黙とうしました」。
昨年は一つ大きな変化があった。マリーゼがかつて拠点としていた福島県双葉郡楢葉町のJヴィレッジがサッカー施設として再開。マイナビはそこで公式戦を行うことができたのだ。「とても嬉しかったですし、また試合やいろんな形で訪れることができたらな、と。試合を見て何かを感じて頂けるような、熱い試合をできればいいと思います」。
9年前に早稲田大学を卒業し、ルーキーイヤーを迎えていたMF小野瞳選手も特別な思いで3月11日を迎えた。「当時のことを知るのは私たちだけ。それを伝えていくという責任はあると思います。練習の中でも一つ一つ丁寧にプレーをすることが感謝の思いを表す第一歩でもあると思うので、こだわってやっていきたいです。まずはここで、できることをどう精一杯できるか。人としてどう成長できるかにつなげていくことが大事だと思います」。
練習場で仲間と過ごす何気ない時間に喜びを感じる。「黙とうの前後で、2人組で対面パスをしたんですけど、ボールを蹴ることができるっていいなと思いました。サーキットトレーニングもしましたけど、これでもかという厳しい練習をみんなでできるっているのは、嬉しいことだなって」。サッカー選手として送る普通の日々が、何より幸せだということを知っている。
3月11日を迎えた朝、GK齊藤彩佳選手は、ふと東京電力時代の上司のことを思い出したという。マリーゼ時代、仕事をしながらサッカーを続ける彼女たちを多くの職場の方々が支えてくれた。「今はどうされているんだろうな…と。9年間で変わってしまったこともいろいろありますし、たくさんの方が辛い思いをしたし、今もしている中で、自分たちがこうしてまたサッカーをする機会や環境を整えてもらえたことに対して、改めて感謝をしなければいけないと思った一日でした」。
マイナビの選手たちは2月に石巻市で被災地訪問を行った。その際、齊藤選手らはチームメートへ震災のことやマリーゼのことを伝えた。「今日も(有町)紗央里さんと話していて、『全然まだまだ知らないや』ということも言ってくれて。経験した私たちが伝えていかなければいけないことがあると思いました。このチームが好きだし、震災を機に作られたこのチームを大切にしたいです。このチームはいつになっても第一線で戦い続けなければいけない、なくしてはいけないチーム。このチームを次につなげるために守っていきたいという思いがあります」。齊藤選手は言葉に力を込めた。
現在、新型コロナウイルス流行の影響で、なでしこリーグの開幕は延期となっている。「サポーターの健康が第一」(安本選手)、「実戦形式の練習で試合をイメージし、一体感を高めたい」(小野選手)、「チームとしてまとまる時間を与えてもらったとポジティブに捉えたい」(齊藤選手)と誰もが前向きに練習に打ち込んでいる。安心して試合を開催できる時まで、念入りに準備を進めていくつもりだ。
それぞれが懸命に前へと進んできた9年間。時を経てもサッカーへの情熱と支えてくれる人々への感謝の思いは変わらない。マイナビの選手たちは、今日も緑の絨毯の上で「当たり前ではないサッカーの喜び」を表現し続ける。